ペルチェ多段化への道 by がまさん

がまさんによる多段ペルチェに向けての連載物です
結局、私は多段ペルチェの開発に失敗したのですが、今回の研究で得た知識をまとめて見ることにしました。
参考にしてください

第1回 復習 ペルチェの能力を知る
第2回  ヒートシンク
第3回 バッファ板とシリコングリス
第4回 ペルチェを効率よく使おう t_ani02.gif (1092 バイト)

復習 ペルチェの能力を知る

    千石85Wペルチェには、最大吸熱量85W、最大温度差72℃と表示されていますが
    常にこの性能で使用できるわけではありません。
    この性能は、最大電圧17.5V、8.5Aをかけたときのものです。
    しかも、最大級熱量は温度差0、最大温度差は吸熱量0のときの値です。

    実際の性能は、特性図から読み取る必要があります。
    冷却資料室の千石ペルチェの特性図1、2、3を参考にしてください。

    これからの議論のため、千石85Wの場合の冷却能力の簡単な見積もり方を紹介します。
    1. 特性図Vin V.S. I から印可電圧に対応する電流値を読む
       12V>5.4〜6.3A (Th=50℃)
    2. その電流値の無負荷時の最大温度差を読む
       5.5A>66℃(Th=50℃)
    3. 千石85Wの場合、1Wの熱を吸収すると温度差が1℃下がるのでこの値を引く
      CPUの発熱を30Wとすると
       66℃ - 1.0℃/W * 30W = 36℃

    こうしてこの場合、ペルチェ素子がその両端に36℃の温度差を生み出すことがわかります。

    次回予告 題名 ペルチェを効率よく使おう

ヒートシンク
     前回、次回予告をペルチェの効率としましたが、もうしばらく基本的なことについてやっていくことにしました。

今回は、ペルチェ+空冷に必要なヒートシンクについて議論します。

 ペルチェ素子は、電圧をかけると素子の両端に温度差を生じます。あくまで温度差が生じるだけです。

ペルチェの高温側を十分に冷やさなければ、ペルチェ素子はその性能を発揮できません。むしろ、ペルチェ自身の発熱の影響で逆にCPUの温度が上がることすらあります

このペルチェの発熱というのが実に厄介です。千石85Wの場合、5Vなら10W程度でたいした問題ではありません。12Vかけると60Wを超えCPUよりも発熱が大きくなります。(参考、冷却資料室、千石ペルチェの特性図2

ヒートシンクが触れないほど熱くなっているような状態でペルチェを使用しても、発熱がさらに増えるだけで冷却することはできません

まずはヒートシンクをより性能のよいものに交換する必要があります

ではどれくらいのどのくらいの性能のヒートシンクが必要なのでしょう?
ヒートシンクの性能は、K/Wという単位であらわされます。
K(ケルビン)は、℃と同じと思ってください。Wはもちろんワットです。
この単位は、1Wの発熱でヒートシンクの温度が何℃上がるかということを意味しています。
ヒートシンクの温度がケース内温度より30℃以上も上がると熱くて触れなくなります。

そこでヒートシンクの温度上昇を+30℃が上限としてヒートシンクの最大廃熱能力を通常のヒートシンクと性能が公開されているアルファのヒートシンクについて考えます。

通常のヒートシンク 0.61.0K/W     -> 3050W

アルファFH6030  0.4K/W      ->  75W

アルファFH8040  0.17K/W     -> 175W

アルファFH10040 0.14K/W     ->  215W

 

最近のCPUをオーバークロックすると発熱量は、3040Wにもなります。(参考、冷却資料室、CPUの発熱量計算)このことを考慮にいれると通常のヒートシンクでペルチェの性能を生かすのは難しいです。この場合、ペルチェが役に立つのは、K6-2/300などの発熱量20W程度の発熱の少ないCPUに限られるでしょう。通常のヒートシンクよりかなり大きいFH6030ならかなり余裕があります。それでも12V印可には、無理があります。FH8040FH10040 なら十分にペルチェの発熱を支えることができます。室温を大きく下回る冷却には、このクラスのヒートシンクが必須です。

結論、ペルチェを使うなら、でかいヒートシンクを使おう

次回予告 バッファ板とシリコングリス 

バッファ板とシリコングリス

今回は、ペルチェの熱をより効率的に伝えるために必要なバッファ板とシリコングリスについて解説します。

ペルチェ素子を直接CPUに貼っても効率的に冷やすことができません。これは、ペルチェ素子のCPUのコアと接触しているところだけしか熱を吸収できないからです。熱の吸収を効率的に行うにはペルチェ素子の吸熱面の温度を一様にし、ペルチェ素子の全面で一様に熱を吸収する必要があります

素子の温度を一様にするには、ペルチェとCPUの間に十分な厚さの金属の板(バッファ板)をはさむのが有効です。熱伝導のよい金属(バッファ板)を使って偏った熱を一様に広げてやるのです。材質としては、アルミや銅がよく用いられています。 理科年表の値を用いて、材質と厚みについて検討します。

理科年表によりますと

  熱伝導率(W/mK) 比重(103kg/m3)
アルミ

236

2.8

403

8.9

CPUのコアの発熱部の大きさは1〜2cm角程度、一般的によく用いられるペルチェ素子の大きさは4cmですから、1〜1.5cm角程度の距離熱を輸送する必要があります30Wの発熱をし発熱部のサイズが1cmのCPUにアルミと銅のバッファ板を取り付けた場合に生じるバッファ板内の温度差を計算してみると

厚さ(mm) 1 3 5
アルミ 15.5度 5.1度 3.1度
9.1度 3.0度 1.8度

この見積もりの発熱部のサイズが1cmというのが小さめの値であることと計算の都合上ペルチェの吸熱が一様と仮定したので上記の値は、実際より大きくなっています。大雑把に言ってここの温度差の半分が熱伝ロスになります。

この結果からバッファ板には、アルミなら5mm、銅なら3mm以上の厚さが適当と思われます。こだわる人やCPUの発熱が50Wを越える極限のオーバードライブを目指すのならそれぞれの厚みを倍程度にするといいでしょう。

では、アルミと銅のどちらがよいかというと純度が高ければアルミです。銅の性能は、アルミの倍ですが比重は3倍、同じ重さならばアルミのほうが性能がよいのです。取り付けのことを考えればこの重さは、非常に不利です。また、銅にタップを切るのは、アルミより難しいという工作上の難点があります。

しかし、入手の都合を考えると銅のほうが安心です。なぜなら私達が通常手にする材料は、純銅や純アルミではないからです。一般的な純銅や純アルミはそれぞれ製品名で無酸素銅(OFHC)とか工業用アルミニウム(A1058P)とよばれるものです。よく売られているものはこれより純度が低く熱伝導率の悪いものです。製造工程や合金のバリエーションを考えるとアルミニウムと名のつくものより銅と銘打って売っているものの方が純度の信頼がおけます。こだわりをもつなら銅にしておいたほうが無難かもしれません。 

バッファ板以上に大切なのが熱伝導用グリースです。グリースの大切さは、純空冷の世界でもよく言われてきました。慎重に塗ってもCPU表面で数度の温度差が生じます。ペルチェを使用するとグリス面が3個所もできるのでグリスの塗りはより重要になります。

 一般的な良質のシリコングリス(サンハヤトSCH−20)などの熱伝導率は、

2×10-4cal/cmsK と表示されています。この単位を理科年表の金属の単位とあわせると0.8W/mKとなります。シリコングリスの熱伝導率は、金属のそれよりも三桁近くも低い値ですので、このグリスの厚みは限りなく薄くする必要があります。かといって薄くしすぎて素が入っては何にもなりませんが

 私の知っているグリスの塗り方例を紹介します。 

1. 金属面が見えるほど薄く均一に塗る

2. 厚めに塗ったグリスを畑のように耕し、貼りつけるときに押しつぶす。

3. 適当な量のグリスを真中にたらし、貼りつけるときの圧力で押しのばす。

私は、最近は3の方法でやっています。性能がよいからではなく短時間でできるからです。
よいやり方を自分で探してみてください

ペルチェを使用する場合は、グリスの塗り方以外にもバッファ板の平坦さが重要になります。傷が入っていたり、工作の後のバリが残っているのは論外です。できるものならガラスなどの平らなものの上に敷いた紙やすりを使って完全に平滑化しましょう。バッファ板がヒートシンクの平面につけると軽く吸い付くくらいに磨くのがよいです。

 バッファ板を磨くのならCPUもと思うかも知れませんが、CPUの平滑化はCPUにへこみが発見されない限りやるべきではありません。CPUのふたのの金属厚みは、1mm程度しかないので先ほどの計算で示しましたようにバッファ板として不充分であるからです。CPUのふたを薄くすると冷却性能が落ちかねません。PUを磨くとしたら必要最小限にする必要があります。 

次回予告 ペルチェを効率よく使う

 

ペルチェを効率よく使おう


ペルチェ素子は、高い電圧をかけた方が大きな温度差を生む。しかし、かといって高い電圧をかけたほうがよく冷えるかと言うと必ずしもそうではない。先にも述べたように十分な廃熱ができないと冷却ができない。

これは、ペルチェの冷却能力がほぼ電圧に比例しているのに対して、ペルチェ素子の発熱が電圧の2乗に比例していることに根本的な原因がある。電圧を上げつづけつといずれ、廃熱能力をペルチェの発熱が上回ってしまうのである。
千石で発売されているペルチェの特性図のCOPを見てみる。この図はペルチェの効率をグラフ化したもので、縦軸について特に記述はありませんが、これは、ペルチェの最大排熱量をペルチェの発熱量で割ったものと想像されます。
この図から低い電流値ほどペルチェの効率が高いことがすぐにわかります。 

かといって6Vでそのまま一枚だけ使っても吸熱能力が低すぎて役に立ちません。

千石85Wペルチェに6Vと12Vを印加するとTh=50度のとき、吸熱能力はそれぞれ37W、65Wになります。(千石ペルチェの特性図3)
そこで吸熱能力の不足は、ペルチェの数を二枚にすることで補うことにします。

冷却資料室の千石ペルチェの特性図2を見てみてください。

40〜50Wの発熱量のところで12V印加一枚より6V印加二枚の方がDTが大きくなります。また、発熱量も6V印加二枚の方は12V印加の一枚の半分です。

よって、500MHzくらいのCPUでは、12V印加一枚より6V印加二枚の方が圧倒的に性能が高いことになります。

個人的には、8〜10Vがペルチェ素子に最適な電圧と考えます。
これより大きな電圧は、発熱が増えるだけで冷却性能を十分生かすことができません。

冷却性能を上げるには電圧を上げるよりペルチェの枚数を増やすことによって対応すべきでしょう。